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レセプトに関して全国的な統計調査があります。これらはいずれ
も公表されていますが、それを簡単に紹介しておきます。
まず第1は、社会医療診療行為別調査です。これは毎年厚生統計協会から刊行されてい
ます。分厚い本ですが、現在ではCD−ROMでも販売されています。前述のように、従
来は紙媒体で調査されてきましたので、1年間を通じて全数調査をすることは不可能でし
た。レセプトの件数は今全国で12億件、つまり1カ月分だけでも1億件あります。その膨
大な紙レセプトを全数調査するのは不可能ですから、国としても年に1回だけ、しかも抽
出されたレセプトについてのみ調査をするということが行われてきました。レセプトに関
する統計としては、この社会医療診療行為別調査が恐らく一番詳細なものです。
これはどこが行っているかといえば、厚生省の統計情報部が統計法に基づく届け出統計
として行っています。対象になるのは何かといえば、政府管掌健康保険と国民健康保険の
2つを対象にしています。したがって、例えば健康保険組合、共済組合とか生活保護の受
給者のレセプトはこれには含まれていません。しかし、その規模と内容からいって、日本
の、恐らくは世界の中でも屈指に入る巨大な調査だろうと思います。
年に一回調査されるレセプトは毎年6月審査分。ということは主に5月診療分、若干4
月以前のものも含まれていますが、約20万件以上のレセプトを抽出して、それによってそ
の中身、手術の項目とか薬の項目等をすべて入力して調査するものです。
この点に関して、1つ大きな変化は、現在入手できる最新のものは97年のものですが、
94年6月審査分以降から薬剤給付の状況も調査するようになりました。それ以前は、
薬剤費は幾らかということはわかっていましたが、薬の中身まで調べることはとてもでき
ませんでした。
ちなみに、なぜこんな大規模な社会医療診療行為別調査が毎年行われているかといえば
、日本の医療保険制度で最も重要な診療報酬の改定という政策目的のためです。例えば初
診料・再診料を1点上げると日本全国でどれだけ医療費が膨らむのかがわからなければ、
国としても予算の立てようがないわけです。そのために主に使われるわけですが、ご存じ
のように、今現在、薬剤給付ということが、ミクロ的でなしにマクロ的にも医療保険制度
改革の上で非常に大きな問題になっています。そのためには、まず我が国の投薬の内容を
知る必要がある、という政策判断に基づいて、94年からは薬剤給付の内容も調べるように
なってきたわけです。
もう1つ、保険局の調査課がやっている国民健康保険医療給付実態調査というものがあ
ります。これは表紙が緑色なので我々は緑本と呼んでおり、おなじみの方もいらっしゃる
と思います。基本的には社会医療診療行為別調査と同じようなレセプトの調査ですが、微
妙に違うのです。
社会医療診療行為別調査は6月審査分ですから、5月診療分だけではな
しに4月以前も含みますが、国民健康保険医療給付実態調査は5月診療分だけを対象にし
たものです。
ほかに、例えば政府管掌健康保険も独自に調査しているし、生活保護制度に関しても、
独自に社会局が調査をしています。
後の方で出てきますが、保険の種別により、いろいろ
な全国統計があります。
社会医療診療行為別調査は最も網羅的で大規模な調査ですが、1つの弱点は、病院と診
療所だけが対象で調剤薬局は含まれていないことです。老人保健施設なども含まれていま
せん。ご存じのように、現在医薬分業が急速に進んでおり、調剤薬局のものを抜きに医療
の内容を調べることはできません。
その点、国民健康保険医療給付実態調査のいいところ
は、数年前から調剤薬局のレセプトも対象にしだしたということです。
もう1つの違いは、社会医療診療行為別調査はどこが調査しているかといえば、審査支
払機関、具体的には支払基金と国民健康保険連合会が調査しています。それに対して国保
医療給付実態調査は、市町村や国保組合といった保険者が調査しているわけです。この違
いが何を意味するかといえば、まず大きな点は、審査支払機関はレセプトしかわからない
のに対して、保険者はレセプトだけでなく、レセプトの被保険者の例えば職業とか所得と
いった社会的な背景も調べられるということです。
職業といっても実に粗っぽい区分ですが、国保医療給付実態調査では、所得水準、世帯
主の職業等も情報が入っているので、そういう分析もできるということです。
これら2つのレセプト調査は私が調査しているのではなくて国がやっていることですが
、それを活用して私自身が分析したことを、ひとつここで紹介しておきましょう。英語で
申しわけないですが、去年アメリカの大学の薬学部に短期留学したときにまとめたもので
す。
今ちょうど老人の薬剤一部負担が廃止されるということが話題になっていますが、ご存
じのように、あれは薬剤費の何割かではなくて、投薬の数に応じて自己負担を課すという
のものです。ずばり言って同じ疾病でも、日本とアメリカ、あるいは日本の院内調剤と医
薬分業している場合とで投薬数が一体どれぐらい違うのだろうか、と思ったわけです。薬
の中身まで調べるのは大変な作業になりますが、投薬数ぐらいならわかるだろう、最も簡
単に比較できるだろうということで調べたものです。
グラフをご覧下さい。トータルと書いているのが全ての傷病に対する投薬数の平均です
。
そしてそれぞれの傷病分類に対して、日本の院内調剤(Japan-direct dispese)と調剤
薬局(Japan-pharmacy dispense)、それから、US−NAMCSurvey、これはアメリカの
患者調査のようなもので、外来患者の調査ですが、そこで把握された投薬数の数です。予
想されたことですが、非常にきれいな関係が出ています。日本の院内調剤の場合は平均す
ると5種類の薬を出しています。ところが、医薬分業した場合には4種類以下に減り、ア
メリカの場合2種類ぐらいです。
あまり時間がないので細かく言いませんが、日本のレセプトを使って薬剤を分析すると
きに最もネックになるのは、1日の薬の値段が 205円以下でしたらレセプトに薬の名前を
書かなくていい、いわゆる 205円ルールというものです。一日分の薬剤費が205 円以下な
ら、レセプトには星印しか書いていませんから、何種類の薬を投与したかはわからない。
しかたがないから205 円以下投薬では1種類しか投薬しなかった、と数えられます。した
がって、皆様がもし社会医療診療行為別調査の実物をごらんになりますと、何だ岡本の言
ってることは違うじゃないか、5種類もないじゃないかと思われるだろうと思います。そ
のとおりです。なぜなら、社会医療診療行為別調査では 205円以下の投薬は全部1種類と
してカウントしているからです。しかし、実際には1種類ではありません。値段は安いけ
れども2種類以上投薬しているわけです。
それで、どうしようかと途方に暮れました。詳細は省略しますが、実際
にこれは問題だと思うのですが、日本のレセプトの薬剤費の約40%は、この205 円ルール
のためにどんな薬に使われているかわからないのです、少なくとも院内調剤の場合は。レ
セプトに薬の名前が載っていないからそうなります。その点、調剤薬局のレセプトは違い
ます。調剤薬局のレセプトは、たとえ1円の薬であったとしても薬の名前書く必要がある
わけです。そこで、不明の薬剤費から薬の数を推計する式を私は独自に出しました。そし
てこのグラフを作ることができたわけです。
そうして得られた結果からわかることを1つだけ言っておきますと、日本の直接投薬の
場合が一番投薬数が多く、医薬分業した場合がこれに次ぎ、アメリカが一番少ない。若干
そうでないところもありますが、どの傷病分類でもその関係が大体きれいに出ています。
つまり、どういうことかといえば、同じ疾病であったとしても、医薬分業した場合とそう
でない場合とで投薬の数が違うのです。
これは医学的に見てあり得ないことです。そうい
うふうに、同じ日本の中であっても投薬数に違いがあるということです。
もう1つ、あれっと思ったことは、どの疾病において日米の格差が大きいかを見てみる
と、意外なことで私も驚いたのですが、精神疾患なのです。精神疾患において、日本では
直接投薬の場合六種類越の薬を出していますが、アメリカの場合は2種類以下、この格差
が一番大きかったのです。
無論精神疾患だからといっても、この6種類の薬が全部向精神薬というわけではありま
せん。
精神疾患の患者さんに与えられる薬が6種類という意味であって、その中には当然
睡眠薬とか抗うつ剤も含まれるでしょうが、それ以外の薬もあるだろう。これは何を意味
しているのか、私は考えあぐねました。
ふと思ったのですが、これは日本の内科医が大いに反省させられるべきものではないか
。なぜなら、精神疾患の患者さんが必要としているのは、実は薬物ではないカウンセリン
グ等といった心理療法であるだろう。ところが、私も内科医ですが、内科医はそういった
カウンセリング等はあまり得意ではなくて、どうしても対症療法に終始してしまいます。
お腹が痛いといえば胃薬を出し、頭が痛いといえば頭痛薬を出しましょうかといった感じ
で、その結果がここにあらわれてきているのではないか。もしそうだとすると、大いに反
省させられる面だという気がしました。時間がないので省略しますが、このようにレセプ
トの調査も充実されて、投薬に関する情報が含まれてきたということです。